徒然なる戰藻錄

WoTとWoWSをプレイしているところなのです

潜水艦操縦練習機

ウェーイヾ('ヮ'*)ノ

今回の四方山話は、海軍が戦前に開発・運用していたシミュレーターについて。

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イラスト:芹野いつき

◆潜水艦操縦練習機

水上を航行する水上戰鬪艦艇に対し、海中に潜って機動する潜水艦は、水平移動だけでなく、潜航深度を変化させる垂直方向の機動も可能な艦種です。
航空機と同じく、三次元機動が可能な唯一の海軍艦艇ということになります。

潜水艦は洋上艦艇にくらべ、海中でのバランスの保持が難しく、航行や戰鬪時の洋上監視も異なってきます。
現代の潜水艦は、無尽蔵ともいうべきエネルギーを引き出す原子力推進によって、海中の恐るべき刺客として君臨していますが、戦前・戦中のころの潜水艦はそうではありませんでした。
ざっくばらんに言えば、可潜艦―――海中にもぐることができる洋上艦―――でした。

こういった特殊な艦である潜水艦は操縦操作が難しく、その習得には長期間にわたる絶え間ない訓練が必要です。
一番いいのは、潜水艦用乗組員を実際に潜水艦に乗せて訓練することです。

しかし、この場合ですと、咄嗟の際の緊急対処が困難で、最悪の場合は沈没事故につながる恐れがあります。
指導要員や教官が同乗していたとしても、乗員のほとんどが訓練生であれば、緊急時の対応は厳しいといえるでしょう。

そこで、実際の潜水艦とおなじ操縦機能をもつものを陸上に設け、これで訓練を行なうことが検討されました。いわば、潜水艦実習シミュレーター、というべきものです。

とはいえ、シミュレーターをつくりにあたり、まずは海中において潜水艦がどういった挙動をするかを調査、把握しなければなりません。
実際の潜水艦に搭載されている各種計器、操作装置。それら計器や装置の操作手順、潜水艦を動かすことによって生じる反応など、シミュレーター開発のためにはさまざまな事象を調べる必要がありました。

たとえば舵。
日本海軍艦艇では、おおむね舵の数は1つです。
ですが、こちらの四方山話でも紹介しているとおり、『扶桑』型戰艦は並列配備で2枚の舵を備え、『大和』型戰艦では推進軸にはさまれるように小さい2つめの舵が備え付けられていました。

海中での三次元機動をおこなう潜水艦では、舵が1枚では不十分でした。
潜水艦には縦舵、横舵、潜舵の3つが備わっています。

縦舵と横舵は艦尾側にそれぞれ垂直と水平になるように取り付けられています。
潜舵は艦首付近に水平に取り付けられていました。
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参考画像:ウッドマンクラブ

縦舵は洋上、海中での航行時の方向転換に用いられます。
横舵と潜舵は潜航、浮上、深度の調整に使用します。

推進システムに関しては、戦前、戦中のころの、日本をはじめとした各國潜水艦の推進動力は、ヂーゼル機関と主電動機―――モーター―――の2種混載が普通でした。
洋上航行時はヂーゼル機関でスクリューを回し、推進軸に取り付けてある主電動機を発電機として用い、艦内に積んである蓄電池に充電します。
ひとたび潜航すれば、ヂーゼル機関と主電動機間の接手を切り離し、蓄電池で主電動機を動かしてスクリューを回します。

ヂーゼル機関を動かしていると、大量の空気が必要となります。通常は、艦橋の両側に設けてある空気取入口より空気をガブ飲みします。
ですが、波が高い時や荒天時は海水が流入する恐れがあるので、艦橋にある乗降ハッチを開放し、空気取入口として利用します。このハッチの直径は60糎ほどで、航行時はかなりの風が発令所などに吹くことになります。

潜水艦の中枢部は発令所になります。
映画とかでもおなじみ、潜望鏡やクルーらが映っているアレです。
発令所は艦内にあり、艦橋内にはありません。
ですが、潜水艦にも艦橋はあります。
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参考画像:K-DOCK

潜水艦の艦橋は窓があるので、独立した部屋があるように見えます。実際は外とつながっており、潜航すれば水没します。
この艦橋と艦内をつなぐハッチ内には梯子がありますが、これを使って上り下りする際の注意点として、踏み棒ではなく横の手すりをつかむことが叩き込まれます。
なぜなら―――
潜航時ともなれば、乗員は飛び降りるような勢いで降りてくるため、踏み棒をつかんでいるとほぼ100%、上から降りてくる乗員に手を踏みつぶされます。

潜水艦の浮上と潜航は、艦体各部に浮力タンクが設けてあり、潜航時はここに海水を入れて潜ります。
浮上時は空気を充填して海水を押し出し、浮かんでいきます。
洋上にいるときは空気がはいっており、浮力を艦にもたらします。
このタンク内の空気の抜き方には熟練が必要とされます。艦のバランスを保ちつつ潜航するため、担当の乗員は傾斜計、深度計を見ながらレバー操作を細かく行なっていました。

潜航する際は、ヂーゼルから主電動機に航走システムを切り替え、全乗員が艦内にはいって艦外部への開放部をすべて閉鎖します。
艦内の隔壁にも直径60糎ほどの通路が開けられていますが、これも防水扉で閉鎖します。
次に、浮力タンクのキングストン弁を開いて海水を下から入れていきます。
タンクへの注水が進むと艦は徐々に沈んでいき、上甲板が海面と同じ高さにまで潜っていきます。
このあと、タンク上部のベント弁を開くと、タンク内の空気が一気に放出され、艦は海面下へと沈降していきます。
この際、潜航角度はダウン角―――ダウントリム―――5度程度になります。あまり急角度にすると艦首を持ち上げることが困難になります。

浮上の際は、浮上海面に障害物やほかの艦船がいないことを確かめた後、空気ボンベから高圧空気を浮力タンクに送り込み、海水を押し出して艦橋から浮上を始めます。
艦が浮上するや、見張り員が飛び出して周囲の状況確認を行ない、ついで艦長が艦橋に上がります。
同時に、低圧空気ポンプを作動させ、高圧空気を低圧空気に切り替え、推進システムをヂーゼルに変更します。
ヂーゼル機関が始動すると、再び空気を大量に吸い始めますので、艦内に新鮮な空気が満ち満ちていくことになります。その後、空気取入口が開かれ、艦は完全な浮上状態となります。

さて―――
潜水艦の通信システムは無線です。
しかし、大半の電波は海面にあたって跳ね返ってしまい、海面下に潜っている潜水艦にまで届く電波は超長波程度になります。これを用いて交信は可能ですが、海面下付近にいると敵の對潜部隊に捕捉される危険が高いため、必要な情報のやり取りは、あらかじめ定められた符号や略号を用いることになります。
現代の原子力潜水艦でも、潜航中の交信はELF交信に頼っており、ELFでは15~30秒でアルファベット1文字を受信するのがやっとという遅さです。

日本海軍の潜水艦では、波長1萬5000米の超長波を用いており、艦首もしくは艦尾と司令塔のあいだをむすぶジャンパーワイヤーに、5~6糎ほどの太さの水防空中線を用いて受信を行なっていました。

短波無線については、専用のアンテナを海上に突出させて交信していました。
このアンテナは昇降短波檣、短波無線檣と呼ばれ、潜望鏡に似た太い金属円柱の上部に、1米くらいの長さの絶縁物の筒を取り付け、そのなかにダブレットアンテナを納めていました。
必要な時に潜望鏡と同じく昇降させることができました。
この短波無線檣は当時、日本独自の裝備でした。

こういった様々な裝備、動きをする潜水艦の操縦、操作技術の習得のために、操縦練習機が開発されました。
用兵側と設計技術者のあいだで協議が何度も繰り返され、代表的な潜水艦が選ばれたのち、その艦内設備を模した練習機が呉の潜水学校に2基設置されました。
練習機は、発令所を模した箱、指揮・訓練用の管制盤、専用電源で構成されました。

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指揮官用として各種の命令發受信器のほか、速力表示器、操舵用の縦舵、横舵、潜舵の舵輪、転輪羅針儀、舵角指示器、注排水用キングストン弁、ベント弁の遠隔操作レバー、高圧空気バルブと圧力計、各浮力タンクの圧力計などが備わっており、操作、練習が実艦を用いずとも可能となりました。
さらに、潜水艦の状態を示す傾斜計、深度計、水圧計、動力系統の速度計、軸回転計、電圧電流計、温度計、湿度計、気圧計、海図盤、航路図、聴音機や探信儀指示盤なども備わっており、これらの訓練も可能でした。

各種計器には、管制盤から種々の指示が与えられます。これに従って訓練生が操作すると、計器には実艦で現れるのと同じ電気的、機械的反応が表示されます。
さらに発令所を模した箱は、潜航や浮上時に、その操作にあわせた傾斜や動揺がモーターによって与えられました。

通常の操作習熟だけでなく、異常時に相当する指示命令を与えることで、正常運転から非常時に対処する応急処置の訓練も行なうことができました。

これほどの練習システムをつくっておきながら、日本海軍は潜水艦を漸減作戦の一環として対艦隊攻撃に振り向け、さらに日々進歩する潜水艦裝備、對潜裝備の開発、情報収集を怠り―――

日本の潜水艦は犠牲に見合う戰果を挙げることなく、就航した潜水艦の大半が太平洋の海底に永眠することになってしまったのは、まことに残念でなりません。

最後に―――

日本海軍の伊號潜水艦はおよそ90名程度の乗員が乗り込んでいました。
驅逐艦などの小艦同様、艦内は家族同然の一体感が醸成されており、艦長から階級の低い一等水兵や二等水兵に至るまで、形式ばったことのない親密さが生まれていました。
そんな潜水艦で………尾籠なネタですが………

人がいるところ、排泄はつきものです。
海軍の古い潜水艦には、じつは厠―――つまりトイレはありませんでした。
用便はどうしていたのかというと、洋上に向けて………ですね。
広大な太平洋が洗浄トイレだったわけです。
出来うる限り我慢はしますが、どうにもならなくなると、甲板にあがり、支柱につかまりながら用を足すわけです。

伊號潜水艦では上甲板の司令塔下部にありましたが、潜航中は水没するので使用できませんでした。
艦内にも厠はありますが、用を足した後、各種バルブを操作し、圧力ポンプで押し出すので、乗員はなるべく我慢していました。

平成の世に生きるキレイ好きな若者には想像もできないし、到底耐えられない潜水艦生活でしょうね。



壁|'-')ノよいお年を。
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