徒然なる戰藻錄

WoTとWoWSをプレイしているところなのです

ある雷巡の物語

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わたしが大井っちと出逢ったのは、横須賀は田浦の水雷学校だった。
なんでわたしが学校にいたのかというと、辞令で重雷装艦になれって言われたから。
重雷装艦、つまり魚雷をしこたま積んだフネってことよね。
魚雷イコール水雷学校。
てなわけで、わたしはその日、水雷学校を訪れて、新設なった重雷装艦講義の受講手続きをしにきたのだ。

とはいえ、水雷学校を卒業してけっこうな月日が経っているので、部屋とか部署とかイロイロ変わってしまっていて、見事なまでに校内で迷ってしまったのよね。

それで校内の中庭をうろついていたら、見覚えのあるようなないような……そんな艦娘を見かけた。
見た感じ、学校の教員には思えない。道を尋ねても鉄拳制裁が来ることはないだろう。
「あの~」
「はい?」

ああ、同型艦の誰かだった気がする、このコ。
球磨型の誰だったけかなぁ...んー、思い出せん。
まぁいいや。

「新設講義の手続きに来たんだけど、場所が分からなくって……よかったら教えてくれないかな」
「いいですよ」
「やった♪ ありがとね☆ミ」

赤煉瓦の倉庫区画へ歩きながら、彼女がちらっと窺うように話しかけてきた。
「重雷装艦になられるんですか?」
「ん、そう。辞令がきちゃったのよね、重雷になれ~って」

彼女の名前が思い出せないまま、わたしも聞いてみた。
「あなたも重雷装艦に?」
「ええ。提督ってば、いまさら学校通いさせるなんて……ふふ、沈めてやろうかしら……

なんか我が国の安全保障にかかわるようなブッソ→な発言があったような気がするけど...
まぁいいや、アノ提督だし。

「重雷装艦になったらあの重~い魚雷をしこたま積むハメになるかと思うと……気が重いわぁ」
「ふふ、でもいずれ、わたしたちが艦隊戦の要になるかもしれませんよ。重雷装艦、がんばってみましょう」

船越の海が見える一角に、その建物はあった。
新設の講義棟。
玄関よこの看板には墨痕鮮やかに、重雷装講義受講生受付とある。
「つきました」
「こっちのほうだったか~。ん、道は覚えたよ」
「講義は明後日からです。今日と明日のうちに買い出しなど済ませた方がいいですね」
「そうするよ」

彼女が踵を返したので、あわてて呼び止めた。
「あ、わたしは……」
「知っていますよ」
わたしの言葉を遮って、彼女はやわらかく微笑んだ。
「北上さん、ですね。球磨型の3番艦ですから、わたしのひとつ上のお姉さんですね」
「やっぱ同型かぁ。見覚えあるわけだ」
「ふふ。わたしは球磨型4番艦、大井です。これからよろしくお願いしますね」

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そして、わたしたちは第10戰隊にそろって編入された。てゆーかこの戰隊そのものが重雷装艦のためだけに編制されたみたい。
少ししてから、驅逐艦娘たちの話を小耳にはさんだので聞いてみた。
第一號秘書艦の電とともに、聯合艦隊最古参の艦娘だっていうんだよね、大井っちは。
「大井っちって電と一緒だったんだ」
「はい。ジゼントーロクしたから配属されたとかなんとか……まぁ、あの提督のことですから、世迷言でわたしを混乱させようとしているのでしょうけど」

そんな大井っちはわたしの知らない鎮守府内の外部へと出られる抜け道、横須賀市内の美味しい甘味処、磯釣りポイントや市内の女学生たちのたまり場など、いろんなことを教えてくれた。
もちろん、戦い方も―――

わたしが猿島沖の出撃点に行くと、いつも大井っちは先にそこに居た。
彼女は毎日違う海域へ連れていってくれた。

わたしも大井っちも二等巡洋艦だけど、重雷装艦だから酸素魚雷発射管が主武装。砲撃戦ではめっぽう弱い。大井っちも弱いけど、わたしはそれに輪をかけて弱かった。
おなじ二等巡洋艦でも川内型は驅逐艦娘たちを率いていろんな場所に行っては戦果を挙げて帰ってくる。でもわたしたちは単独行動の深海棲偵察艦と遭遇しても、無傷で母港に帰れる日はないってぐらい、必ずどこかしら傷を負わされた。
いやホント、驅逐艦娘とくらべても月とスッポンだったね。

でも、わたしは大井っちと一緒により遠くの海へ、見たことのない紺碧の海を、感じたことのない南国の潮風を、内地とは違った真っ青な空の下で大井っちと航行できるのがうれしかった。
それだけで十分だった。

毎日毎日2人で話し、戦い、ときにはちょこっとケンカもするけど、次の瞬間にふたりそろって互いに謝ってた。とても楽しい毎日が続いた。

この頃はまだ甲標的を使った先制雷撃の戦術も水雷学校で模索中の段階で、のちに深海棲艦隊よりも猛威を揮う白い猫を従えた(?)娘の存在や大破強行進撃といった黒い鎮守府疑惑すら知らなかった。

鎮守府正面海域や南西諸島海域で、毎日毎日、単艦もしくは小規模な小隊編成の深海棲艦を叩くだけでしかなかった。
まぁ、それはそれで面白いし、間宮食堂の新作果実アイスの試食優待券を巡って大井っちと撃沈数を競い合ったりしていたから、出撃→戰鬪→帰還→入渠→睡眠→出撃……という単調な日々の生活に飽きがくることもなかった。

夏が来て―――

いよいよわたしたちに重雷装艦としての大改装計画が達せられた。
水雷学校で考案され、各種実験が繰り返されて基本戦術が確立した先制雷撃による戦場制圧艦たる重雷装艦。

この大改装がなれば、わたしと大井っちはいよいよ実施部隊の一員として前線配備になる。
川内型や夕張、阿武隈(よくぶつかるんだけどなぜ?)、鬼怒といった乙巡たちに負けない活躍ができるハズ。うん、そのはず。

わたしと大井っちは改装計画を知らされたその日の出撃でついつい気分が高揚しますってなっちゃって、沖ノ島でなかよく敵戰艦にフルボッコにされて帰ってきちゃった。
いやぁー、あのときの工廠長の顔ときたらいやほんと……

や、ほんと、すんませんでした。

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入渠しろ、そう工廠員に指示されて、わたしは大改装用の各種資材が山と積まれた三號船渠にはいった。
となりの四號船渠には大井っちがはいるようだ。

重雷装艦(改二)かぁ...
どんな風になるんだろ?
楽しみだ。

大破損傷した個所はこの大改装でまとめて修理される。
だから次に大井っちと逢う時は、パリッと糊のきいた新しい制服姿になっていることだろう。
ふふ、大井っちはなに着ても似合うからなぁ...わたしと違ってまた可愛いんだろうなぁ……提督によく触られてるのも……最古参だか……かわい……あぁ、眠くなってきた...

「―――さん」
ん~……わたしを呼ぶのは誰……
「起きて、北上さん。終わったよ」
「ん~...眠い……」
「ふふ、昨日ははしゃぎすぎましたものね。でもほら、起きて」
誰かに肩を揺さぶられる。
そのゆすり方が優しいから、またぞろ睡魔が押し寄せてくる。
「ん~……あと5年……」
「そ、それはさすがにちょっと寝過ぎじゃ……」
「うぅ...その手を離さないとぉ...腕を引っこ抜いて...血まみれのそのさきっぽでぇ...ひっぱたくよぉ……」
「あ、提督が北上さんの制服をくんかくんかしてる」
「ナンデストっ!!?
とんでもない発言に眠気は一挙に吹っ飛んだ。
発条仕掛けのように起き上がったわたしのとなりに、淡いクリーム色の制服を着た大井っちが後ろ手に立ってにこにこしている。

ああ、新制服...
そうだった。今日から重雷装艦(改二)になったんだ。
武裝も四聯裝61糎酸素魚雷にかわって、さらに威力が向上した五聯裝発射管に換装されている。
うん、この重雷装ならル級だろうとタ級だろうと、一撃で沈められる気がするよ。気がするだけだけど。

「北上さん、渡しておくものがあるんです」
そう言って大井っちが差し出したのは、小型の潜水艇だった。甲標的、という秘匿名称で知られている雷撃戦裝備だ。
水雷学校で考案された重雷装艦戦術である先制雷撃の要となるものらしい。
「潜水艇……? これを持っていくの??」
「ええ。酸素魚雷、甲標的、艦砲...わたしたちの基本裝備ですよ」

先制雷撃、砲撃、雷撃...
どうやら生まれ変わったわたしは以前よりはるかにとことん忙しくなりそうな予感。

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そして、わたしたち第一〇戰隊は聯合艦隊主力として第一線に配備された。

……わたしが言うのもなんだけど、強かった。
先制雷撃で敵主力艦を一撃のもとに沈めるなど日常茶飯事。

わたしたちの雷撃戦力に、敵の雷巡ごときでは歯が立たなかった。
わたしたちは北はキス島から南は珊瑚諸島、西はカレー洋の果てまで、休むひまもないほど各戦線に火消しのごとく投じられた。

大井っちとふたりだけで、南国の陽射しを浴びながら深海棲艦と殴りあった日々が懐かしく思えるほどに、わたしたちはさまざまな戦場に出向き、あのころとは比較にならない深海棲艦との過酷な戰鬪を繰り広げた。

そして―――

11月24日。

わたしはこの日を忘れないだろう。

わたしは前日の戰鬪で軽い損害を受け、修理船渠の空き時間がなかなかとれないため、その日の出撃は大井っちのみとなり、わたしは前進根拠地のラバウル(仮称)で待機していた。

サーモン諸島東方海面での撃滅戦を終えて帰ってくるのは25日なんだけど、昼を過ぎても帰ってこなかった。
艦隊は聯合艦隊総旗艦副艦の金剛さん、聯合艦隊総参謀艦の榛名さんをはじめ、錚々たる戦列艦ばかりだから、敗北を喫することなどありえなかった。
じゃぁ、なぜ、大井っちの帰りはこんなに遅いの?

午後になって、出撃していった艦隊が還ってきた。
だけど艦隊は補給もそこここに、陸戦隊の兵士が周囲を厳重に固める中、ラバウル市街の郊外にある通称・官邸山の海軍病院裏手の高級将校用官舎へと連れていかれた。

わたしは大井っちに会いに行こうとしたけど、陸戦隊の兵士に制止され、会うことはできなかった。

夕食どきになって、大井っちは特務によりサーモン諸島沖に残ったことを驅逐艦娘たちから教えられた。大井っちへの補給のために、トラック(仮称)根拠地から給油艦の足摺が護衛艦を伴って出港したとも知らされたので、ひとまず安心した。

だけど―――

25日深更、わたしは聯合艦隊司令部に呼び出された。
大井っちに合同せよと言われるのかな? と思っていたら...

愛宕聯合艦隊司令長官から告げられたのは予想もしなかったものだった。

「落ち着いて聞いてくれ。大井は24日、サーモン沖で戰艦棲姫との交戦で撃沈され……未帰還となった」

大井っちが……

沈んだ?

聯合艦隊最古参であり、そしてあとちょっとで大和さんや金剛さんらと同じLv99になろうというほど卓越した戰鬪経験を持つ大井っちが……?

「大井の戰没は当分、公表されない。彼女の喪失は艦娘をはじめ全海軍将兵の士気に影響を及ぼすばかりか國民の戦意に甚大な影響を与えかねない」

長官の言葉を理解できない。
大井っちが沈んだ? 戰没……? 未帰還……?
ありえない。大井っちは必ず帰ってくる。わたしのところに必ず―――


気づくと、わたしは宿舎の寝床にいた。
どうやら気を失ったようだ。
ラバウル(仮称)基地は灯火管制にあるため、室内に照明はない。だけど、青白い月明かりが射し込んでいるので、室内の情況はよくわかった。
整理整頓された大井っちのハンモックと机。私物のはいった衣嚢。
24日の出撃後そのままで、どこにも変化はない。

大井っちはいない...

もう、還ってこない...

冷たい現実に胸が痛い。
と、机の横に大きななにかが置いてあるのに気付いた。
なんだろう?

手に取ってみて、すぐにそれがなにかわかった。

わたしたちに支給されている15糎5副砲だ。
第一〇戰隊は聯合艦隊の決戦兵力と見なされているので、ほかの艦娘と違い、支給される裝備はすべて専用のものだ。ほかの艦娘との共用ではない。

大井っちはこれを置いてなにを装備していったのだろう?
15糎5副砲2つと甲標的。それがサーモン沖に向かうわたしたちの基本裝備なのだ。24日の出撃時を見送った時、たしかに大井っちは副砲2つと甲標的を装備していた。
月明かりに照らして、大井っちがなにを持っていたのかが分かった。
副砲には大井っちの名前が書かれている。修理などの際、共用裝備でなく専用裝備であることを整備員などが把握するためだ。

わたしは振り返り、机横の装備品保管庫を見た。
そこにあるはずのものがない。

大井っちは―――

わたしの副砲を装備して出撃していった。

なぜ?
そんなの考えるまでもない。

お守り代わりだ。

「北上さんと一緒だと負ける気がしないの。だからなにか……北上さんと一緒に出撃しているように思える……そう、お守りが欲しいかな」
出撃前に大井っちが言っていた言葉を思い出した。
あのとき、帰ってくるまでに用意しておくよとわたしは言ったんだけど、大井っちはこっそりと副砲を持ちだしていったんだ。お守りとして―――

わたしは大井っちの残していった副砲を抱きしめて泣いた。

彼女はもう戻ってこない。
わたしは大井っちの沈没未帰還を受け入れ、ずっと、ずっと泣き続けた。

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12月のある日、わたしは田浦の水雷学校の中庭でひとり、ぼぉーっと空を眺めていた。
あの日以来、わたしは戦場に出られなくなった。
大井っちのいない戦場に出ても、ただ敵の攻撃を受けるだけ―――

ここで沈めば大井っちのところに行ける……

そう思うと、自然とからだは敵の艦砲射線上に移動してしまう...
そしてその都度、ほかの艦娘に引き留められ、押し戻され―――

出撃禁止を命じられるまでそう時間はかからなかった。
11月の終わり、わたしはほかの損傷艦娘や輸送船とともに横須賀へと帰ってきた。
第一〇戰隊所属のまま、海軍水雷学校附属を命じられた。

12月の横須賀は寒い。
だけど今日は珍しく日差しが強く、中庭で座っていても暖かさすら感じられた。

そういえば―――

ここで大井っちに声をかけたんだよね。半年も前のことだけど、昨日のことのように感じられる。

「あの―――」

そうそう、こんな感じに……って!!?

わたしは思わず飛び起きた。まさか……!!
だけど、そこにいたのは大井っちじゃなかった。

眼帯をした艦娘。
あら? たしか球磨型の...

「おぅ、すまん。もしかして寝てたのか?」
「あ、いや……」
「起こしたのならすまない、謝る」
「ううん、べつに……寝てないから大丈夫よ」
「そうか。ところで、重雷装講義を受けにきたんだが、どこへいけばいいのかさっぱりなんだ。もしよければ、場所を教えてくれないか?」
彼女は心底困ったように頬をぽりぽりかきながら周囲を見渡した。

思い出した。
この艦娘はわたしと同じ球磨型だ。その最終番艦の木曾だ。

「連れていってあげるよ」
「ホントか? そいつぁ助かる」
木曾はホっとし、そしてニカッと太陽のようにまぶしい笑顔を浮かべた。ああ……ガサツそうにみえていいコだな、わたしはそう思った。

赤煉瓦の倉庫区画へ歩きながら、彼女をちらっと窺うように話しかけた。
「重雷装艦になるの?」
「ああ、辞令がきたんだ。予備役艦を解除、重雷装艦転換任務に就けってな」

あの時のわたしのように、木曾はわたしに問いかけてきた。
「あんたも重雷装艦に?」
「ええ。水雷学校附属だけど、一応、もう重雷装艦よ」
「となると……北上か!! あ、いや……北上姉さんか」
あわてて訂正する彼女がなんか面白くて、わたしは思わず吹き出してしまっていた。

球磨型としてわたしの妹だった木曾が、重雷装艦で後輩になるのか。
ふふ、なんかいいな、こういうの。

「さ、着いたよ」
「ここか。助かったぜ。ありがとな」
「どういたしまして」
わたしはなぜか、そのまま木曾に声をかけていた。
「手続きが済んだら、肩慣らしに海に出てみる?」
「おっ、いいねぇ。そうと決まりゃ~さっそく手続きしないとな」
彼女はあっさりと受け入れてくれた。

半年前、わたしは大井っちにいろんなことを教わった。
今度は―――
わたしが木曾に教える番だ。
「……わたしにも、できるかな
「ん? なんか言ったかい??」
「ううん、なんでもない」
わたしは猿島の方角を指差した。

「さぁ、暁の水平線に向かって出撃しましょうか!!

-終-
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参考出典:あるアサシンの物語
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